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2020.03.19

子どもと地域の関係が、地域づくりの土台になる。余呉湖の普及や水質調査に取り組む余呉小中学校

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子どもと地域の関係が、地域づくりの土台になる。余呉湖の普及や水質調査に取り組む余呉小中学校

写真提供:(公社)びわこビジターズビューロー

 滋賀県北部に位置する余呉湖。琵琶湖と比べると周囲約6.4kmの大変小さな湖で、湖畔の自然とともに四季に合わせて姿を変えるその美しさが人々をとりこにしてきました。湖面が穏やかで空や景色を映し出すため、「鏡湖」とも呼ばれます。しかしこの余呉湖も、生活排水が流された結果赤潮が発生し、水質が悪化していた時期がありました。

 当時から授業や部活動を通じて調査研究や広報活動に積極的に取り組んできたのが、地元の鏡岡中学校です。その後余呉小学校と統合されて誕生した余呉小中学校が取り組みを受け継ぎ、子どもたちと地域の未来をつなぐ「よごふるさと科」に注力しています。

 今回は余呉小中学校の校長・筑田利美(ちくだ としみ)先生に、取り組みの内容についてうかがいました。

琵琶湖に対して「小江(をうみ)」と呼ばれた余呉湖

子どもと地域の関係が、地域づくりの土台になる。余呉湖の普及や水質調査に取り組む余呉小中学校

写真提供:(公社)びわこビジターズビューロー

 賤ヶ岳によって琵琶湖と隔てられている余呉湖。滋賀県最北端の長浜市余呉町に位置する湖です。古くは琵琶湖に対して「伊香の小江(をうみ)」と称され、日本最古の羽衣伝説などの伝承が残っています。

 かつては河川による流出入が乏しい閉鎖湖だった余呉湖。洪水対策と用水確保のための治水工事を経て、現在は余呉湖に注ぐ余呉川が分岐して琵琶湖にも注いでいます。

子どもと地域の関係が、地域づくりの土台になる。余呉湖の普及や水質調査に取り組む余呉小中学校

 余呉湖と同じ町内にあり、長らく余呉湖と関わりを持ってきたのが余呉小中学校です。2018年に余呉小学校と鏡岡中学校が統合されて施設一体型義務教育学校として生まれ変わったため、鏡岡学園とも呼ばれます。

 「余呉に学び 大きな心で 未来を生きぬく」を教育目標に掲げ、小中9年間の一貫性と継続性を活かした教育課程を設計。タブレット端末を使用したICT教育を取り入れながら、地域に開いた取り組みに力を入れています。

 そんな余呉小中学校は、子どもたちが地域に貢献する体験づくりを重視していると言います。授業を通じて子どもたちはどのように余呉湖や地域との関係を築いているのでしょうか。

小中一貫の継続性と一貫性を活かした教育設計

子どもと地域の関係が、地域づくりの土台になる。余呉湖の普及や水質調査に取り組む余呉小中学校

 余呉小中学校の校長(2020年2月現在)・筑田利美先生によると、鏡岡中学校による地域学習は1970年前後から続いているそうです。

 筑田先生「当時は余呉湖の水質が悪化していた頃です。科学部の子どもたちが放課後や休日の時間を使って、熱心に余呉湖の水質調査に取り組んでいた記録が残っています」。

 その後余呉湖の水質が改善するなど、時代によって取り組みは変化したものの、授業や部活動を通じて関わりを持ってきました。その歴史を受け継いだ余呉小中学校では、小学1年生から中学3年生までの9年間の生活・総合の時間を使って、「よごふるさと科」を新設。水質調査だけでなく外来魚の問題や漁師の後継者不足など、余呉湖の変化に合わせて取り上げる課題も変えています。

学校から地域に飛び出して、子どもと地域の関係を築く

子どもと地域の関係が、地域づくりの土台になる。余呉湖の普及や水質調査に取り組む余呉小中学校

(写真提供:余呉小中学校)

 よごふるさと科において特に注目したいのは、9年間の集大成へと向かっていく小学6年から中学3年生にかけての取り組みです。

 小学6年生は余呉湖ボランティアガイド、中学1年生は余呉湖のPR動画作成を経験し、中学2・3年生では「よごを楽しむプロジェクト」を通じて自分たちが地域でやりたいことに挑戦します。ICT教育を取り入れて一貫教育を活かしたカリキュラム設計だと言えるでしょう。

 子どもたちの学びを学校内にとどめずに、地域と協働して余呉町全体をフィールドにした体験を提供することがテーマの一つです。

子どもと地域の関係が、地域づくりの土台になる。余呉湖の普及や水質調査に取り組む余呉小中学校

 例えば現在の9年生は、1つ上の学年の先輩が募集したゆるキャラに「そらめ」と名付け、普及活動に取り組んでいます。地元の観光館や店舗と連携し、SNSを活用して顔出しパネルやフォトスポットを用意するなど、ICT教育で学んだ知識を活かしているようです。

子どもと地域の関係が、地域づくりの土台になる。余呉湖の普及や水質調査に取り組む余呉小中学校

(写真提供:余呉小中学校)

 他にも余呉湖で釣った魚を自分たちで調理したり、余呉湖に飛来する鳥を調査研究したりと、子どもたちの興味関心に応じてさまざまな角度から余呉湖や地域に関わっています。

 筑田先生「子どもが余呉で日々過ごすなかで課題に感じていることや気づいたことをきっかけにした、地域に貢献する体験づくりを重視しています。ご協力くださっている地域の方々と関わり、地域をフィールドに自分がやりたいことに取り組む。子どもたちが例え将来余呉を離れたとしても、この記憶が地域との接点をつないでくれるはずです」。

子どもと地域の関係が、地域づくりの土台になる。余呉湖の普及や水質調査に取り組む余呉小中学校

(写真提供:余呉小中学校)

 地域の景色、そしてそこで人と関わりながら過ごした時間、自分なりに地域と関わった記憶があれば、そこは「地元」になる──。

 未来の地域における土台づくりに寄与する余呉小中学校の余呉湖における取り組みは、琵琶湖と子どもたちとの関係構築を考える上で重要なヒントをくれています。

菊池百合子
ライター
菊池百合子

編集者・ライター。2018年にフリーランスとして独立し、インタビュー記事を中心にWebメディアや雑誌で執筆している。神奈川県で生まれ育ち、2018年に滋賀県長浜市に引っ越し。関心のあるテーマは「地域での暮らし」と「人生の選択肢」。