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2020.05.09

増える琵琶湖の「水草」と除去問題 刈り取った水草はどこに行く?

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増える琵琶湖の「水草」と除去問題 刈り取った水草はどこに行く?

(「公益財団法人淡海環境保全財団」提供 水草揚陸の様子)

 近年、琵琶湖周辺、とくに南湖周辺で「水草」が問題となっています。以前から琵琶湖に自生していたはずの水草は、なぜ近年になって問題となっているのでしょうか。また、増えすぎた水草の駆除がどのように行われているのか。そして刈り取られた水草がどのように活用されているのかなど、琵琶湖の水草対策・対応について、公益財団法人淡海環境保全財団主査の川端隆弘(かわばた たかひろ)さんに伺いました。

増える「琵琶湖の水草」が問題に

増える琵琶湖の「水草」と除去問題 刈り取った水草はどこに行く?

(公益財団法人淡海環境保全財団主査 川端隆弘さん)

 「琵琶湖の水草は増え続けているというわけでありません」と川端さん。年度によって増減があり、全体として増加し続けているという事実はないそうです。しかし、「岸に流れ着く水草は増えています」ともいいます。水草を目にする機会が増えているため、水草に悩む人が増えているようです。

 水草は琵琶湖中に自生しているものですが、増えすぎたり、大量に漂着すると弊害を生みます。とくに琵琶湖岸で暮らす人々にとっては、喜ばしいばかりではないようです。

 水草が増えたり、漂着する水草が多くなると、どのような問題があるのでしょうか。
 ひとつは漁業への悪影響です。水草に阻まれ、漁船の航行に支障をきたすほか、刺網や貝曳網などの操業ができなくなったり、漂流した水草が網に絡まったりなどの問題を引き起こします。また、枯死した水草が湖底に堆積するため、湖底の泥化が進行し、貝の生息がしにくくなる原因にもなっているようです。湖底に酸素が届かなくなるため、魚の生育にも悪影響があると考えられています。
 「2015(平成27)年は水草が非常に多かった年です。南湖のほぼ全面にみっしりと水草が生えており、船が通れなくなるほどでした」と川端さん。「漁業はもちろん、レジャーにも影響があるため、琵琶湖を生活の糧としている人への悪影響が考えられます」。

 漁業とも重なりますが、生態系にも多大な変化をもたらします。水草が繁茂すると、ブルーギルなどの外来魚にとってすみやすい環境になります。しかし在来魚にとっては深刻なマイナス要素にもなるようです。また湖底の泥化や、貧酸素化、植物プランクトンの減少・種類の変化にともなうエサ不足などが原因し、シジミをはじめとする二枚貝の生育も阻害してしまうのです。

 周辺に暮らす住民にとっても水草は困りものです。ちぎれて岸辺に漂着した水草は景観にも悪影響ですし、次第に腐って悪臭のもとにもなって、住環境を悪化させます。とくに台風の通過後は多量の水草が岸に打ち寄せます。その量は時には数十トンにもなり、琵琶湖の周囲で暮らす人々を悩ませているのです。

水草増加は「渇水」が原因?

増える琵琶湖の「水草」と除去問題 刈り取った水草はどこに行く?

(公益財団法人淡海環境保全財団)

 「琵琶湖の水草が問題となりはじめたのは、1994(平成6)年頃ではないでしょうか」と川端さんはいいます。この年から翌年にかけて、日本列島を襲った渇水。この渇水が水草問題の要因となったとする説もあるようです。

 “平成6年渇水”“1994年渇水”などと呼ばれる渇水。九州北部から関東地方までの広い地域に影響を及ぼし、各地に不安と損害をもたらしました。
 この年、琵琶湖の水位も6月頃から急激に下がり始めました。9月15日には観測史上最低となるマイナス123cmを記録。8月22日から10月4日までの44日間にわたって取水制限が行われるなど、滋賀のみならず、京都や大阪などの都市にも多大な影響を与えたのです。

 川端さんは「渇水が水草に影響を与えたとするのは、あくまでもひとつの説です」としながらも、「渇水によって琵琶湖の浅い部分が露出しました。また水位が下がったこともあり、普段は日の当たらなかった地域にも光が届くようになったことが関係しているのではないかとも考えられます」と教えてくれました。

 主に気象条件によって水草の多寡は異なりますが、もっとも増える夏を中心に、“水草の除去”つまり刈り取りや回収の必要性が増します。とくに水草が多い年は、周辺からの除去依頼も増えるといいます。
 水草除去を担当するのは滋賀県内の行政や団体です。多くの人手と予算をかけて、周辺住民の生活と琵琶湖の健全な環境を守っています。

カンタンじゃない! 「水草除去」

増える琵琶湖の「水草」と除去問題 刈り取った水草はどこに行く?

(「公益財団法人淡海環境保全財団」提供 水草機械刈り取りの様子)

 一口に“水草除去”といっても容易ではありません。「刈取機械を使えば、船1隻で1日20~30トンほど刈り取ることができます。それでも夏季は1隻が1日がんばっても1ヘクタール、つまり100m四方も対応できないのが現状です」と川端さん。琵琶湖は非常に広い湖ですので、琵琶湖全体で十分な対応を行うには難しい面もあるようです。住民からの要望が多い地域や、イベントが行われる地域などを中心に、優先順位をつけながら、できる限り幅広い範囲での対応を目指しています。

 刈り取った水草の処分も問題です。水草の多くは水分なので、集めた水草を乾燥させると、その体積や重量が減少します。しかし乾燥させるにはスペースや労力、それに伴う費用が必要ですし、乾燥した水草の処分にもコストがかかります。

水草の有効活用策「水草堆肥」はいかが?

増える琵琶湖の「水草」と除去問題 刈り取った水草はどこに行く?

(「公益財団法人淡海環境保全財団」提供 水草除去の様子)

 環境のためにも、捨てるのではなく、有効活用をとの考えから生まれたのが、水草を使った“堆肥”です。川端さんの所属する公益財団法人淡海環境保全財団は、特に有効利用部分を受け持っています。
 この“水草堆肥”、近年できたものではなく、長い歴史の中で活用され続けたもの。江戸時代頃、琵琶湖の水草は肥料や土壌改良材として利用されていました。有用な水産物のひとつとして売買の対象にもなり、“採取権”が存在したほどだとされます。また万葉集には『玉藻刈る』というフレーズが見られます。これは水草(藻)を刈り取ったという意味。刈った藻は肥料として活用されたと考えられており、琵琶湖の水草堆肥の長い歴史が伺われます。
 今では邪魔者扱いされる水草ですが、かつてはその採取権を巡って紛争が起こるほど、貴重な資源でもありました。

 公益財団法人淡海環境保全財団と滋賀県は、水草堆肥を共同開発。干拓地に集めた水草を重機で混ぜ、2~3年かけて発酵させた堆肥を作っています。
 この堆肥はほとんどが県民に無料配布されており、畑などで有効活用されています。有料ではなく無料配布されている理由は、水草に交じるゴミの除去が難しいこと。水草にはプラスチックや金属片などのゴミが絡んでおり、丁寧に除去してもどうしても残ってしまうそう。「異物の混入を納得していただいたうえで、無料配布しているという状況です」と川端さん。
 水草堆肥の利用者からの評判は上々で、『(作物などが)よく育つ』『収穫量が増えた』との声も多く寄せられ、『今後も使用したい』と考える利用者が多いようです。

水草を上手に使い「理想の琵琶湖」を目指せ

増える琵琶湖の「水草」と除去問題 刈り取った水草はどこに行く?

(「公益財団法人淡海環境保全財団」提供 堆肥切り返しの様子)

 今後はより多くの水草を堆肥化することが目標。さらに「ゆくゆくは有料での活用も」との希望もあります
 その試みは“明豊建設(長浜市加納町)”で、すでに始まっています。2019(平成31)年には『湖の恵(Benir du lac)』と名付けた匂いのほとんどない堆肥を販売。これから徐々に広げていくことも視野に入っているそうです。
 「水草堆肥が評判になり、有効活用が他の企業などにも広がっていくと嬉しいです」と川端さん。今後の広がりに期待が寄せられています。

 今後の琵琶湖の水草対策について、川端さんは「2050年頃の琵琶湖のあるべき姿を念頭に策定された『マザーレイク21計画』によれば、琵琶湖の湖底の20~30km2をさまざまな種類の水草が覆う状況が示されています。現在の水草対策を継続することで、理想の状態に近づけることができればと考えています」と話してくれました。
 事業を止めることなく対応し、さらに水草の有効活用を模索する。その向こうにある、理想の琵琶湖を目指して。水草対策は今後も続いていくのです。

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ライター
目片雅絵

京都出身、滋賀に仕事で通ううちに滋賀に惹かれて彦根に移住。ライターをするかたわら、夫と「彦根の自転車店・侍サイクル( https://jitensyazamurai.com/db/ )」を経営。湖東・湖北を中心に、滋賀各地を自転車で走り、ついでに美味しいものを食べるのが何より幸せ