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2020.05.08

地域に根差した環境活動!ふるさと琵琶湖・堅田の景観を守る「大津衛生社」

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地域に根差した環境活動!ふるさと琵琶湖・堅田の景観を守る「大津衛生社」

 大津衛生社は、堅田を中心に大津市内の16学区を担当する環境衛生事業の会社です。街をきれいにするため、縁の下の力持ちとして、毎日の作業にあたるごみ収集・運搬業者の存在は、私たちにとって非常にありがたいものですよね。

 実はこの大津衛生社、地元ではさらに別の活動で大きな注目を浴びています。今回は、代表取締役社長の伊東竜成さんと取締役の西條学さんに詳しいお話をお聞きしました。

身近なecoパートナーとして、地域の環境活動に尽力

地域に根差した環境活動!ふるさと琵琶湖・堅田の景観を守る「大津衛生社」

 2009年から10年間、大津衛生社が本業と同様に力を入れているのが、堅田地域を中心とした環境美化活動です。特に2020年度で11年目を迎える琵琶湖・堅田の満月寺浮御堂の水草除去活動は、メディアでも取り上げられています。

 伊東さんは、生まれも育ちも堅田。高速道路を使って遠出しても、帰り道、西大津バイパスから琵琶湖が見えると「故郷に帰ってきたな」と落ち着くほど、地元に愛着を持っています。

 ある日、伊東さんは台風や大雨で大量に押し寄せた水草が、浮御堂の景観や臭気に悪影響を与えているという話を耳にしました。琵琶湖面の水草は滋賀県、湖岸に打ち上げられた水草は大津市や周辺市と管轄が違い、水草の除去がスムーズに進んでいなかったそうです。そこで、伊東さんたちは地元のために一肌脱ぎ、手弁当で除去作業をすることにしました。

 当時、申請をすれば処理代だけはもらうことができたのですが、「自分たちが勝手にやっていることだから」とすべて自腹。想いはただ一つ、「せっかく滋賀の堅田まで来てくれる観光客の目に、自分たちが誇りとする美しい浮御堂の景色を焼き付けてもらいたい」ということだけでした。

 大津衛生社は、その前年(2008年)民事再生を申請し倒産寸前まで追い詰められていました。会社の緊急事態に跡を継ぎ、がむしゃらに頑張る伊東さんと大津衛生社を応援してくれたのは、ほかならぬ地域の人たちや大津市の職員、関係者の皆さんだったのです。

 1年かけて再生の道を作った伊東さんにとって、浮御堂での水草除去の活動は、地域の人々に恩返しする大きなチャンスでもありました。

地元の漁師も入らない、堅田の湖水に飛び込んで…

地域に根差した環境活動!ふるさと琵琶湖・堅田の景観を守る「大津衛生社」

(画像提供:大津衛生社)

 とはいえ、大津衛生社の普段の仕事は、ごみの収集や運搬などがメインです。水草や藻の除去は専門外。当時はまだ30代だったため、伊東さんも西條さんも「とりあえずやってみよう!」という気持ちで言葉通り「琵琶湖に飛び込んで」いきました。

 しかし、やはり現実は厳しいもの。作業時期を考えないと湖水の冷たさで作業どころではありません。試行錯誤の結果、水温が高い7月から9月の月末に、10人ほどで行なうことになりました。

 最初のうちは、水草の根がびっしりと張った水中を歩くだけでもやっと。上から掻き出してみたり、小舟を借りてみたりもしましたが、どれもなかなかうまくいきません。結局、「身体がかゆくなるから、堅田の漁師でも入らない」と言われる湖水に、肩まで浸かり地道に刈っていくのが一番だとわかりました。

 大変なのは水中作業だけではありません。水を含み重くなった水草を、狭いスペースで50~60回ひたすら引き上げる陸上での作業は想像以上の負担でしたと、西條さんは話してくれました。

地域に根差した環境活動!ふるさと琵琶湖・堅田の景観を守る「大津衛生社」

(画像提供:大津衛生社)

 琵琶湖での作業を半日以上続けた後は、水草の廃棄処理。外来種の水草は、保水力が強くなかなか乾きません。できるだけ乾燥させ水分を減らし、焼却コストを削減するよう工夫します。

 街の焼却センターは搬入すれば引き受けてくれますが、費用はもちろん大津衛生社の負担。しかし、ゆっくり乾かしていては、臭いや見た目に良くないため、ある程度の状態で焼却しているそうです。

地域に根差した環境活動!ふるさと琵琶湖・堅田の景観を守る「大津衛生社」

(画像提供:大津衛生社)

 このように、数々の困難を乗り越えて行なわれる浮御堂の水草除去も、気が付けば丸10年。毎回、2.5トンほどの除去を続けた結果、巨大台風が来ても以前のように滞留することはなくなりました。

 「さすが、琵琶湖堅田の浮御堂!」と、観光客が思わず見入ってしまう美しい景観は、大津衛生社の惜しみない努力によって守られていたのです。

違法業者も根負け!?有害ビラに勝利宣言!

地域に根差した環境活動!ふるさと琵琶湖・堅田の景観を守る「大津衛生社」

 大津衛生社が取り組む地域活動は、このほかにもあります。浮御堂の水草除去作業と同時期に始めたのが、「大津まちなかスッキリ士隊」の有害ビラ除去作業です。

 2008年ごろ、堅田の街には、いたるところに違反広告や有害ビラがあふれかえっていました。小学校や幼稚園周辺など、子どもたちの目の届くところに貼られたビラ。琵琶湖の美しい景観に似つかわしくない広告を伊東さんや西條さんたちは、収集のたびに苦々しい思いで見つめていたといいます。

 そんなとき、伊東さんは大津市が募集する景観向上の取り組みを見つけました。一番乗りで応募した大津衛生社。そのあと、すぐに3,4団体が加わり、今では十数団体が力を合わせる大きな運動となったのです。

 専用のスクレーパーを武器に除去していきますが、何度はずしても貼り付けられる有害ビラ。取っては貼られる、貼られては取る…のいたちごっこを繰り返した結果、街中で違法広告を見ることはパタッとなくなったそうです。子どもたちの健全な成長を願う伊東さん、西條さんたちに軍配が上がった瞬間でした。

子どもに人気の収集作業見学会は、先生や保護者からも大好評!

地域に根差した環境活動!ふるさと琵琶湖・堅田の景観を守る「大津衛生社」

 大津衛生社の地域活動の中で、子どもたちに大人気なのが、収集作業見学会です。大津市では、小学4年生になると、環境学習の一環としてごみ処理センターへ見学に出かけます。大津衛生社では、その事前学習として、ごみ収集と分別作業を子どもたちに生で見てもらう機会を設けているのです。

 様々な種類の回収車を学校のグラウンドに派遣し、実際にパッカー車がごみを飲み込んでいく姿を身近に、そして安全に見学してもらいます。意外と知らないごみ分別クイズでは、先生が間違ってしまうこともあるそう。「和気あいあいと盛り上がりながら、ごみや環境について学ぶことができる」と先生や保護者の皆さんからもとても好評です。

 例年15~16校で見学会を行なう大津衛生社には、たくさんの子どもたちから心温まるお礼の手紙が届きます。伊東さんたちは、それを一枚一枚しっかりと読み、自前で購入したリサイクル定規や鉛筆を子どもたちにプレゼントしています。

地域に根差した環境活動!ふるさと琵琶湖・堅田の景観を守る「大津衛生社」

 この見学会を始めてから、とても嬉しい変化がありました。朝、ごみ収集を行なっていると、お母さんたちから挨拶されることが多くなったそうです。

 「恥ずかしながら、かつて自分たちの業界は、マナーも悪く交通ルールに対しても非常にルーズでした。でも、お子さんたちとの心のふれあいを通じて、皆さんの認識が、『得体のしれないごみ収集の会社』から『子どものためにいろいろとやってくれるあの会社』に変わっていったのがひしひしと伝わってきます。まだ足りない部分もたくさんあると思うので、これからも社員教育を徹底していきたいです」伊東さんは、満面の笑顔でそう語ってくれました。

子どもたちと一緒に住みたい街を目指して

地域に根差した環境活動!ふるさと琵琶湖・堅田の景観を守る「大津衛生社」

 今後も、これまで以上に地域活動に力を入れていきたいと考える大津衛生社。

 自分たちがボランティアをすることで、大津や堅田、琵琶湖がきれいになり、「いい街だな」と思う人が増え、やがて「ここに住みたい」という人も多くなり、地域の活性化につながるはずだと伊東さんたちは考えます。

 この街が大好きだから、来てくれる観光客の笑顔を見たい。そして、いつの日か、「子どもたちと一緒にこの街に住んでみたい」と思ってもらえたら…。そのためにも大津・堅田に住む皆さんのために、自分たちにできることから挑戦していこう。

 常に琵琶湖や大津、堅田の今と未来に思いを馳せつつ、本業や地域活動に取り組む伊東さんや西條さんの姿に、「机上の空論」では終わらない、真の「環境活動」の意義を学ばせてもらいました。

ライター
梨紗

初めてのキャンプも、初めてのスキーも、初めての登山も…すべて滋賀で経験した琵琶湖大好きなライター。1男1女の母となったあとも、子どもたちにせがまれて、春夏秋冬、足繁く琵琶湖へと通っている。