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2020.05.03

琵琶湖のシジミ復活大作戦 二枚貝のすみやすい環境整備を目指す「里湖づくり」プロジェクト

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琵琶湖のシジミ復活大作戦 二枚貝のすみやすい環境整備を目指す「里湖づくり」プロジェクト

(シジミ復活大作戦の様子「写真提供:滋賀県琵琶湖環境科学研究センター」)

 琵琶湖にすむ在来魚介類の減少が叫ばれています。とくに減少著しいのは貝類。以前は各地の浅瀬で見られたシジミですが、今ではめったに見られない地域も増えています。

 シジミをはじめ、在来魚介類を増やすにはどうすればいいのでしょうか。明確な答えは出ていませんが、生物のすみやすい環境をつくるのが重要だと考えられており、各地で環境整備が進められています。

 「滋賀県琵琶湖環境科学研究センター(滋賀県大津市柳が崎5-34)」では、2017(平成29)年から、試験的な活動である「里湖づくり」のプロジェクトに取り組んでいます。活動の中心人物、滋賀県琵琶湖環境科学研究センター 総合解析部門生態系保全係 専門研究員の井上栄壮(いのうえ えいそう)さんにお話を聞きました。

2017(平成29)年始動! 「里湖づくり」プロジェクト

琵琶湖のシジミ復活大作戦 二枚貝のすみやすい環境整備を目指す「里湖づくり」プロジェクト

(「里湖づくり」活動のねらい「画像提供:滋賀県琵琶湖環境科学研究センター」)

 2017(平成29)年7月にスタートした「里湖づくり」活動。「シジミなどの二枚貝がすみやすい環境づくり」を目的としたプロジェクトです。「二枚貝がすみやすい環境」とは、ほかの底生動物にとってもすみやすい環境。シジミを意識した環境整備が、琵琶湖の生態系改善につながると期待されます。

 「二枚貝がすみやすい環境」は、琵琶湖のシジミ類が激減した理由から推察できます。減少の理由にはさまざまな要素があり、「これ」という確固とした要因は判明していません。しかし1960年代頃からの水質悪化、生息場所となる砂地の減少などが主な理由だと考えられています。

 シジミを増やすための具体策について、井上さんは「浅い砂地の環境を整えることが大事」だといいます。「浅い砂地にはシジミをはじめ、たくさんの生物がすんでいます。しかし次第に砂地は減少。湖底の生き物も減ってしまいました。このプロジェクトでは砂地を回復させることで、生き物のすみやすい環境が蘇るのではないかとの仮説を立て、その実証を行っています」

まずは「試験地」の環境を好転させよう

琵琶湖のシジミ復活大作戦 二枚貝のすみやすい環境整備を目指す「里湖づくり」プロジェクト

(活動場所「画像提供:滋賀県琵琶湖環境科学研究センター」)

 「里湖づくり」では「砂地の減少」と湖水の流れを妨げる「水草の繁茂」に着目。湖底を耕してかき混ぜて泥を洗い流し、増え過ぎた水草を除去して湖水の適度な流動を促すなどの活動を通じて、泥化している湖底を砂地に変えようとしています。
 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター付近の15メートル×30メートルに区切った湖辺2カ所を試験地と定め、片方を「耕耘区」として対策を実行。もう片方をなにも行わない「対照区」として、比較調査を行っています。

 湖底に「泥」が溜まっていると、湖底の環境が悪化します。たとえば泥にはリンや窒素、炭素などが蓄積しやすく、水質が悪化すると考えられます。泥は細かなものですから、適度な水流があれば、流されて堆積量はわずかです。しかし水草が生い茂ると水の流動が妨げられ、多くの泥が沈殿していまいます。水草を除去すれば、適度な水の流れが生まれ、泥の堆積が抑制されると考えられます。
 また湖底に泥が溜まっていると、湖底付近が「嫌気的」になり、生物が生息しにくい環境になります。対象的に砂地は「好気的」であり、底生動物がすみやすくなります。さらに泥の周囲には動物プランクトンや底生動物のエサとなりにくい藍藻類が多くなるのに対し、砂地には底生動物が好む珪藻類が増える傾向があることもわかってきました。
 水草を減らし、泥を洗い流して砂地に近づける。湖底環境改善の目指す方向性が定まりました。

力を合わせて湖底を耕し、水草を刈り取る

琵琶湖のシジミ復活大作戦 二枚貝のすみやすい環境整備を目指す「里湖づくり」プロジェクト

(湖辺環境修復活動の様子「写真提供:滋賀県琵琶湖環境科学研究センター」)

 「里湖づくり」の主な活動は、「人の力」で改善できる余地がある「湖底の耕耘」と「水草の刈り取り」と決めプロジェクトはスタート。地域ボランティアさんの助けと、漁業関係者の協力のもと、プロジェクトは続いています。
 活動は月1回、水草がとくに繁茂する夏季は月2回実施。毎回20人前後の住民ボランティアが集まります。この3年ほどで、子供から年配の方まで、世代を超えたのべ800人以上が参加。地元を中心に、多くの人々が注目、参加する活動へと成長しているのです。

琵琶湖のシジミ復活大作戦 二枚貝のすみやすい環境整備を目指す「里湖づくり」プロジェクト

(船での湖辺環境修復活動の様子「写真提供:滋賀県琵琶湖環境科学研究センター」)

 暑い日も寒い日も、活動は湖底の泥を耕してかき混ぜることから始まります。「湖底を耕耘することで、溜まった泥が流れ、粒の大きな砂だけが残ります。繰り返せば次第に湖底は泥から砂地へと変わっていくはずです」と井上さん。浅い部分は住民ボランティアによる人力で耕耘し、深い部分は「マンガン」と呼ばれる貝曳き漁具を使って曳航し、「耕耘区」の湖底を耕していきます。
 水草の刈り取りも同様。浅い部分は住民ボランティアが刈り取り、深い部分は漁業者に協力を仰いで船を出して除去しています。15メートル×30メートルの範囲に限定しているものの、刈り取った水草は7トン近くに達し、「里湖づくり」活動は着実に実績を重ねています。

地道な活動の結果、少しずつ成果が!?

琵琶湖のシジミ復活大作戦 二枚貝のすみやすい環境整備を目指す「里湖づくり」プロジェクト

(湖辺環境調査活動の様子「写真提供:滋賀県琵琶湖環境科学研究センター」)

 「里湖づくり」活動の検証は1月、4月、7月、10月と3カ月に1度行われています。検証は「耕耘区」と「対照区」の2箇所で貝類の生息状況などを観察。比較するものです。
 「耕耘区」と「対照区」と区別はされていますが、位置するのはどちらも湖の中。区画が完全に切り離されているわけではありません。湖底の砂粒や湖底にすむ生物は移動もしますので、「耕耘区」と「対照区」との間に明確な差が認められていないのが現状です。

 しかしその中でも「湖底の砂粒は以前より多少大きくなっているなど、ある程度の成果は感じられています」と井上さんはいいます。「泥から砂になった」といえるほどの大きな変化ではありませんが、地道な活動が実を結びつつあるのでしょう。

 シジミなどの二枚貝の生育状況にも「変化の兆しが見える」と井上さん。「貝の数という点では、年間の差も激しく、『増えた』とはいえません。しかし大きな個体が増えていることから、生育環境は改善しているようです」。
 以前は貝が生まれても、小さなうちに死んでしまいました。「里湖づくり」を通じた湖底環境の改善により、貝が大きく育つようになったとも考えられそうです。

小さな活動から、琵琶湖全体での大きな活動へ

琵琶湖のシジミ復活大作戦 二枚貝のすみやすい環境整備を目指す「里湖づくり」プロジェクト

(「シジミ復活大作戦」の様子「写真提供:滋賀県琵琶湖環境科学研究センター」)

 「「底生動物がすみやすい環境を整える」という目標には少しずつ良い方向に向かっているようですが、「琵琶湖のシジミを増やす」という目的の達成には、まだ時間がかかりそうです。
 井上さんは「今後も活動を続けていきたい」としながらも、「『里湖づくり』は、現在の地域で成果を出すことだけが目的ではない」といいます。耕耘区の環境を整えるのが最終目標ではなく、琵琶湖全体で同様の活動を行い、二枚貝や他の底生動物がすみやすい環境をつくるのが目的だからです。

 「大津の耕耘区やその周辺だけでなく、琵琶湖の各地へ『里湖づくり』活動が広がっていくのが目標です。さまざまな場所で、たくさんの人々が同じような活動をしていく。ひとりひとり、各地域での力は小さくても、琵琶湖の環境や『里湖づくり』に興味を持つ人が増えれば、いずれは大きな力になります。そうなった時には、湖底の環境も整い、二枚貝だけでなく、さまざまな生物がすみやすい環境へと変わっていくのではないでしょうか」

「里湖づくり」活動では、ボランティアとして参加いただける満18歳以上の方を随時募集しています。
また年1回、夏には小学生とその保護者の方を対象とした活動体験イベント「シジミ復活大作戦」も開催。1回から参加できますので、活動日や参加申込などは「特定非営利活動法人おおつ環境フォーラム」へ問い合わせてください。

※新型コロナウィルス感染症対策として、2020年3月から住民参加の取り組みのみ中止しています。
 再開時期は未定のため、現在の状況等については「特定非営利活動法人おおつ環境フォーラム」にお問い合わせください。
 特定非営利活動法人おおつ環境フォーラム(http://eco-otsu.net/)

琵琶湖のシジミ復活大作戦 二枚貝のすみやすい環境整備を目指す「里湖づくり」プロジェクト

(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター 総合解析部門生態系保全係 専門研究員井上栄壮さん)

滋賀県琵琶湖環境科学研究センター

滋賀県大津市柳が崎5-34

目片雅絵
ライター
目片雅絵

京都出身、滋賀に仕事で通ううちに滋賀に惹かれて彦根に移住。ライターをするかたわら、夫と「彦根の自転車店・侍サイクル( https://jitensyazamurai.com/db/ )」を経営。湖東・湖北を中心に、滋賀各地を自転車で走り、ついでに美味しいものを食べるのが何より幸せ