琵琶故知新

琵琶湖知新

人・団体
2020.05.08

古くて新しい暮らし「持続可能なライフスタイル」を楽しむお宅拝見

  • facebookでシェアする
  • twitterでシェアする
  • LINEでシェアする

古くて新しい暮らし「持続可能なライフスタイル」を楽しむお宅拝見

人と地球に優しい「持続可能な社会」。そんな社会を目指すには、一人ひとりの意識変革と、地球に優しいライフスタイルの実現が不可欠です。

 「持続可能な社会」とは「地球環境や自然環境が適切に保全され、将来の世代が必要とするものを損なうことなく、世代の要求を満たすような開発が行われている社会」とされます。

 経済発展や技術革新が進んだ現在、人々の生活はとても便利になりました。物質的に豊かな生活を手に入れた一方で「過ぎた生活」が地球環境の悪化をもたらしています。「持続可能な社会」へと導くには、我々一人ひとりが生活を変えていかなければなりません。

 「生活を江戸時代に戻す」などという極端な意見もありますが、さすがにそれは難しい。しかし、今の生活をほとんど変えずにいると、温暖化をはじめとする地球環境の悪化に歯止めがきかないのもまた事実です。「無理なくできる範囲で」「楽しみながら」、しかし「大胆に」。今までとは異なるライフスタイルへと移行していきたいものです。

 最新の知恵や技術、機器を活用しつつ、古き良き時代の暮らしを現代的にアレンジして実現する「持続可能なライフスタイル」ともいうべき、古くて新しい生き方。一足先に「持続可能なライフスタイル」へと移行をはじめた、滋賀県立大学名誉教授などを歴任する仁連孝昭(にれん たかあき)さんの暮らしをのぞかせてもらいました。

滋賀県多賀町と京都の二拠点生活

古くて新しい暮らし「持続可能なライフスタイル」を楽しむお宅拝見

(滋賀県多賀町のお住まい)

 仁連さんが住まうのは、滋賀県多賀町の山間部に建つ庭付きの一軒家。周囲には田畑として活用できそうな土地もあり、隣には薪や道具を収納する建物もあります。自然に抱かれた立地ではありますが、近くに民家も見える「里山暮らし」ができる場が、仁連さんの新たな暮らしの舞台。現在はこの多賀の家と、家族の住む京都の家とを行き来する、二拠点生活を送っています。

「お金を儲けるために働く」から「生きるために働く」へ

古くて新しい暮らし「持続可能なライフスタイル」を楽しむお宅拝見

(暖炉の前でお話される仁連孝昭さん)

 訪問したのはまだ少し肌寒い日。薪ストーブの炎を見ながらお話を聞かせてもらいました。

 「かつて、人は生きるために働いていました。しかし今は違っています」と仁連さんは言います。例えば、食料をつくるために畑を耕し、煮炊きをするために水を汲み、火を起こす。生活のすべてが「身体を動かすこと」で成り立っており、「生活のために身体を動かしていた」のです。しかし今はどうでしょう。生活は便利になり、スイッチひとつで電気がつき、蛇口をひねればお湯が出る時代。生活のために身体を動かす必要はなくなりました。人々が働くのは「生活のため」から「お金のため」へと変遷しています。

 「東南アジアの山村でもかつては“お金”を稼ぐ必要はありませんでした。しかし1990年代頃からは次第に“お金”の必要性が増していきます。TVやビデオなどの電化製品が導入され、生活が変化したという側面もありますが、メインは『教育費』や『税金』かもしれません」と仁連さん。
 教育費や電気代、税金など“お金”が必要になった結果、「お金がなくても暮らせる」世の中ではなく、「お金がないと暮らせない」世の中へと変化。人々は「生活のため」ではなく、「お金を儲けるため」に働くようになったのです。

 現代社会では「お金を儲けるために働く」から完全に解き放たれるのは難しいのが現状です。しかし生活を変化させ、できるだけ「生きるために働く」ことを主眼にすることはできそうです。
 必要なものを必要なだけ、できるだけ身体を動かして手にする。できる範囲で自給自足に近づけることにより、環境負荷の少ない生活が実現できるのです。

「電気をできるだけ使わない」生活を目指す

古くて新しい暮らし「持続可能なライフスタイル」を楽しむお宅拝見

(お母屋の隣に建つ薪小屋)

 「この家は、住んでいた人が亡くなって空き家になった建物です。相続されたご家族にも住む意志がなかったので、お借りすることになりました。一部は大工さんの手も借りていますが、大部分は時間をかけてコツコツ自分で手を入れています」と仁連さん。
 以前からずっと「山間部に住みたい」との希望があり、さまざまな場所を候補に探し続けていたといいます。米原や永源寺も候補にありましたが、ご縁のあった多賀の家が新たな生活の舞台となりました。

 居住空間を、少しずつ住みやすく居心地のいいものにと整えると同時に、電気をできるだけ使わない生活を送るための設備や機器も整えました。

 例えば暖房器具は「薪ストーブ」。真冬でも家全体が暖かいと言います。
 「焚き付けには仕事で使い終わったあとの資料などの紙類や建物の修繕で出た端材を使っています。薪はご近所からいただいてきます。ご近所には薪ストーブを使う家が少ないですから、『薪にする木がほしい』といえば、喜んでわけてくれます」と仁連さん。
 「寒い日にゆっくり薪をくべ、揺らぐ炎を見ているだけでも楽しい」ともいいます。手間はかかりますが、ランニングコストはほぼゼロ。地球にもお財布にも優しい暖房器具です。

工夫次第で楽しく実現、「電気代1000円」生活

古くて新しい暮らし「持続可能なライフスタイル」を楽しむお宅拝見

(お風呂などのお湯を沸かすのにも薪を活用)

 お風呂に入れるお湯は太陽光と薪でつくり、夏は風が抜けて涼しいので冷房設備は使いません。電化製品は冷蔵庫と仕事で使うパソコンが中心。仁連さんは「ひと月の電気代は1000円程度」といいます。電気もお金と同じ、まったく使わない生活は難しいですが、極力控える生活は可能です。

 「上水道は使わず、井戸水を使っています。トイレもコンポストトイレにしたかったのですが、現在の法律では運用できないといわれ、下水道を使っています。エコな暮らしの知恵はたくさんありますが、法律や状況が許してくれないことも多く、折り合いが難しい面もあります」と仁連さん。
 仁連さんは以前、近江八幡市にエコな生活を営む「村」をつくる活動に参加していたことがあります。しかし「家」ではなく「村」となると、さらに難しさが増します。行政との衝突や法律に阻まれる場面も多く、思い通りの活動にはならなかったそうです。
 その時の“苦い思い出”も今回の多賀暮らしに生きています。法律や行政、地域との摩擦を解消、もしくは緩和させて、理想の生活に少しでも近づける。
 選択肢は無数にあります。その中から、現在の住まいや居住地域、目指す生活にマッチする方法を選ぶこと。困難な道ではなく、少しの努力程度で実現可能なレベルに留めること。これが、経験から得た「持続可能なライフスタイルのコツ」なのかもしれません。

「生きるために体を動かす生活」が楽しい

古くて新しい暮らし「持続可能なライフスタイル」を楽しむお宅拝見

(お庭の手入れなど、今後チャレンジしたいこともたくさん)

 「現代は、日常生活を営むなかで身体を動かすことが減りました。しかし多賀での生活は、生きていくために身体を動かさないといけません。全部自分で」と仁連さん。家を修繕する、掃除をする、薪を割る。すべてに自身の身体を使います。仁連さんは「でもそれが楽しい」といい、さらに「今の時間を大切にしています」とも話します。
 「都会では、家にいてもすることがないのです」と仁連さんはいいます。「何でもスイッチひとつでできますし、そうでなければお金で解決することができ、身体を動かす必要がありません。でも今は生活のために身体を動かしています。家の修繕もまだまだしたいですし、庭にも手を入れたい。やることが多くて、毎日とても忙しいのです」

 多賀で暮らす仁連さん。今後さらに力を入れたいこと、新たにチャレンジしたいこともたくさんあるそうです。そのなかで最近はじめたのが狩猟。「多賀の山には害獣も多いので、駆除も必要。撃った鹿などはさばいて、ありがたくいただきます。地域の役にも立ちますから、一石何鳥にもなっています」
 敷地内に菜園をつくるのも目標のひとつ。多賀名物の蕎麦を栽培し、将来は蕎麦打ちなども考えているとのこと。夢はどんどん広がります。
 今後も「健康な間は、多賀で暮らしたい」と仁連さんはいいます。「周囲のみなさんと良い関係を築き、その中で自分の暮らしを営む。必要なものは自分でつくる、もしくは近所から手に入れる。そんな暮らしをしていきたいと考えています」

 仁連さんは最後に、「持続可能なライフスタイル」には「つながりが大事」だと話してくれました。希薄になってしまっていた「人と人との繋がり」を復活させることがカギになるというのです。
 「人は1人では生きていけません。他の人や活動と繋がり、互いを支え合い、助け合う“共存”が重要です。得意なものを提供し、逆に不得手な部分を助けてもらう。それもまた持続可能なライフスタイルにとって大切な部分ではないでしょうか。この琵琶故知新で企画している『びわぽいんと』も、人と人の繋がりを支援する新たなツール。うまく活用して、自然と共生するライフスタイルに役立てていってもらえるといいですね」。

目片雅絵
ライター
目片雅絵

京都出身、滋賀に仕事で通ううちに滋賀に惹かれて彦根に移住。ライターをするかたわら、夫と「彦根の自転車店・侍サイクル( https://jitensyazamurai.com/db/ )」を経営。湖東・湖北を中心に、滋賀各地を自転車で走り、ついでに美味しいものを食べるのが何より幸せ